スイッチング電源って、そもそもナニ?

スイッチング電源はどこにでもある?

身の回りを見渡してみるとスイッチング電源はいたるところに組み込まれています。スマホの充電器をはじめとして、ノートPC用アダプタや液晶テレビなど、ほとんどの家電製品に組み込まれていると言っても過言ではありません。スイッチング電源をひとことで言うと…

AC100Vなどの交流を入力するとDC5Vなどの直流が出力されるもの

スイッチング電源はAC-DCコンバータと呼ばれることもありますが、本稿ではスイッチング電源と表記します。また、直流から直流に変換するDC-DCコンバータもスイッチング電源と呼ばれることがありますが、今回はAC-DCコンバータを対象とさせていただきます。

ドロッパー方式とは

スイッチング電源は、スイッチング方式の電源ということになりますが、実はスイッチング方式ではない電源も存在します。スイッチング方式に対してドロッパー方式と呼ばれ、それぞれ次のような特徴を持っています。

名称回路特徴備考
ドロッパー方式シンプル大きくて重いリニア方式、シリーズレギュレータとも言う
スイッチング方式複雑小さくて軽いスマホのACアダプタもこの方式

ドロッパーを直訳すれば「落とす」ということになりますが、では何を落とすのでしょうか?結論から言えば「電圧を落とす」ということになります。さきほどのスマホ用ACアダプタでは交流100Vを直流5Vに電圧を落としていましたが、スマホに限らず直流で動作する機器は数Vなどの低い電圧で動作するものが多いため、ACアダプタでは電圧を大幅に落とすことが必要となります。

この「電圧を落とす」ときに活躍するのがトランス(変圧器)と呼ばれる部品で、簡単に交流の電圧を変換することができます。私が知る限り最もシンプルなDC電源はトランスと半波整流回路を組み合わせたもので、以下のような回路です。

見ておわかりのように、たった3つの部品で構成されていますね。これらの部品はそれぞれ次のような役割をはたしています。

トランス

トランスは1次側と2次側の巻き線比を変えることにより交流の電圧を巻き線比に比例して変換することができます。仮に1次側と2次側の巻き線比が10対1とすると、1次側に100Vを入れると2次側には1/10の電圧、すなわち10Vが出てくるという訳です。

ダイオード

ダイオードは基本的な半導体であり、その名の通り半分(片方向)のみ電流が流れるという特徴を持っています。ここではトランスの2次側に出てきた10Vの交流から片方向(プラス側)のみ取り出すために使用しています。これを「整流」と言い、ダイオード1個で構成された最もシンプルな整流回路を「半波整流回路」と呼びます。

コンデンサ

交流をダイオードで整流しただけでは、単に交流のプラス側を切り出しただけに過ぎないため、直流と言うよりも「マイナス側を切り取ったプラス側のみの交流」と言った方が近いかも知れません。 こんなときにコンデンサを使えば半波整流後の「山だらけ」の波形を平らにして、より直流に近づけることができます。このような用途で使われるコンデンサを平滑コンデンサと呼びます。

半波整流回路

半波整流回路では、図のようにダイオードで交流の半波(この回路ではプラス側)のみを取り出します。すると図のようにマイナス側がなくなりプラス側だけの断続した波形になり、これだけでは直流とは程遠い波形ですね。そこでコンデンサに溜める(充電する)ことにより電圧が出ていない部分を補ってなだらかにするというしかけです。

この図ではわかりやすくするために完全な直流ではなく、少しだけ「山」の影響が残っています。(これをリップルと呼びますが、本題とそれるのでここでの説明は割愛します)実際は直流の出力端子(+)と(-)に何も接続されていない(電流が流れていない)のでコンデンサから放電されることは無いため、もっと直流らしく平坦になります。
ちょうどコンデンサの両端の電圧は「預金残高」のようなもので、交流の周期で定期的に給料などが入金(コンデンサに充電)されます。その後使わなければ(電流を流さなければ)最初の残高を維持していますが、使えば使うほど(電流を流すほど)残高(コンデンサの両端電圧)は低下していきます。感の良い方はおわかりかも知れませんが、この回路は大きな電流を流す用途には向いていません。なぜなら次の入金前に残高が無くなってしまうからです。この半波整流回路はDC電源の基本中の基本なので、ぜひ覚えておいてください。

スイッチング電源の基本回路

ドロッパー方式は部品点数が少なくて良いのですが、大きくて重いという欠点があります。例えばスマホの充電器をドロッパー方式にすると何倍もの大きさでしかも重くなるので、おそらくとても持ち歩く気にはならないでしょう。その一番の原因は電圧変換に使用しているトランスが大きくて重いことが原因であり、これを使用せずに小型軽量化したのが下図のようなスイッチング方式となります。

スイッチング電源の基本回路

全波整流回路

入力の交流を電圧変換トランスを通さず、直接整流しています。ここでは電圧を落としていないのでコンデンサC1に充電されるのは100Vを超える高い電圧の直流になります。

スイッチングトランス(高周波トランス)

回路記号は電圧変換トランスと似ていますが、その動作は全く異なります。電圧変換トランスは商用周波数の50Hz(または60Hz)で動作していますが、スイッチングトランスは高周波用となっており、小さくて軽いのが特徴です。

スイッチング用半導体

コンデンサに充電されている直流をスイッチング用半導体を使って高速にON/OFFを繰り返すことによって高周波を作り出し、スイッチングトランスの一次側に供給します。

半波整流回路

スイッチングトランスの二次側に現れた高周波をダイオードによる整流回路で再度直流に変換し、コンデンサC2を充電します。この直流電圧を制御回路に渡します。

制御回路

出力電圧(C2の両端電圧)が目標値の電圧より低いときはスイッチングのデューティ比を上げ、逆に高いときはデューティ比を下げるように制御します。(デューティ比については後述)

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デューティー比とは

スイッチングのデューティ比はON時間とOFF時間の比率を表しており、以下のようになります。

デューティー比ON時間OFF時間整流後の直流電圧
(C2両端電圧)
10%10%90%最大電圧の10%
50%50%50%最大電圧の50%
90%90%10%最大電圧の90%

このように、スイッチングトランス出力側の半波整流後のC2両端電圧はスイッチングのデューティ比に比例して変化します。言葉を変えて言えばデューティ比を変えることにより出力電圧の制御ができる訳ですから、ドロッパー式のような電圧変換トランスを使わなくても電圧を下げることが可能となる訳です。

デューティー比

スイッチング電源の短所とは

これまでの説明でスイッチング電源は良いことばかりのようですが、実は短所もあります。そのひとつがスイッチングノイズやリップルの問題です。内部で高速にスイッチングすると、それに伴うリップルノイズが出力端子に現れてきます。スイッチング電源の試験を実施する際、リップルノイズの測定は重要な試験項目のひとつになっています。

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